『星野リゾートの教科書』を読んで
特別な才能を持っているならば、成功者の体験談を読んで自分のインスピレーションに従い行動すれば良い。
この本では、特別な資質を持っていなくても、教科書通りに行動することの重要さを教えてくれる。教科書から学んで行動することを戦略とするならば、たとえうまくいかない場合でも安易に戦略を変更する必要はない。何故なら、教科書の内容は流行の波を超えて、古典ながらも通用するからこそ、今でも残っていると考えることができるから。うまくいかない場合でも戦略はそのままに安心して微調整を図ることができる。直感に頼った行動だと裏付けがないから、あれもこれもとぶれやすい。
教科書は机上の理論ではなく、素直に徹底して実践することで、さまざまな分野の課題に応用して解決させることができる実践的な理論であることを教えてくれる。
3行で要約
星野社長は経営学の専門家が書いた「教科書」に学び、その通りに経営してきた。
経験上「教科書に書かれていることは正しく、実践で使える」と確信している。
星野社長が直面した経営上の課題と、解決に役立てた教科書のケーススタディー。
行動に移そうと思った3つのこと
問題解決は古典から学び、今後の展望はトレンドから見通す。
古典は今の自分に合うか合わないかであり、役に立たなかったというレッテル貼りをしない。
自分への宿題を持ち歩く。
次に読んでみたいと思った本
柔らかい心で生きる
星野リゾートの事件簿
振り返り
第1部 教科書の生かし方
私は1991年に星野リゾートの社長に就任して以来、経営学の専門家が書いた「教科書」に学び、その通りに実践してきた。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.12
星野社長が考える教科書を探し、読み、解決する方法を考えることのメリットは次のとおり。
- 根拠や基準となる理論があれば、ぶれがなくなる
- 思い切った経営判断に踏み切れる
- 小さな会社ほど「教科書通り」の意味が大きい(社内への浸透と方向転換のしやすさ、経営リスクを減らせる)
ところが基準を持たない経営判断では、すぐに良い結果が出ないと、「自分の判断が間違っていたのではないか」と疑心暗鬼になってしまう。もう少し辛抱すべき時でも、何とかして短期的に改善をしたくなり、それが経営のぶれを生む。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.14
教科書通りに判断してすぐに成果が出ない時があったとしても、最初の一歩としては正しく、そこから戦術を調整すれば良い。
何も変えられないことが実は最も大きなリスクであることが多い。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.15
変えない判断をしたのであれば良いが、何も判断できずに現状維持となっていることが問題。
自社が抱える課題を持って、「解決に役立つ教科書はないか」と探しに行くことの方が多い。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.18
自分も読書をするにあたり興味のある分野の本を探して読むことから、今自分が抱えている課題を解決するのに役立つ本を探して読む方向へシフトさせている。この考えは正しいことを後押ししてもらった一文。
むしろ私が注目するのは、書棚に1冊ずつだけ置いてあるような本だ。こうした本は流行の波を乗り越えて、体系化された理論として生き残り、定石として一般的に認知されたことを示している。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.18-19
定石であるため目新しさはないが、古典的な理論の中にこそ役立つメッセージがある。問題解決は古典から学び、今後の展望はトレンドから見通す、これを今後の自分の指針とする。
本を選ぶときの基準として、私は、著者の研究者としての知名度を重視する。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.19
コンサルタントを兼ねて学問と実践の場を行き来して、膨大な調査によって自分の理論を実証している人の著書が教科書として最適。逆に、経営者が「自分はこうして成功した」と経験を語る本は、経営者自身の直感的なセンスの話であることが多く、教科書には向かない。
逆に、数ページ読んでも「ピンとこない」という場合んもある。これは「理論が難解すぎて手に負えない」というケースと、「本がテーマとして扱っている課題が自社の課題と合致していない」という2つの理由が考えられる。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.20
どんな古典的な名著であったとしても、今の自分の課題に合致していなけばピンとこない。役に立たない本/自分に合わない本だったのではなく、その本との出会いの時ではなかったということ。決してレッテル貼りをしないよう注意。
書かれている理論を理解すると同時に、「自社にどのように当てはめればいいのか」「どこを変える必要があるのか」を考えながら読む。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.21
漫然と読むのではなく、常に問題意識を持って読む必要がある。
繰り返しになるが、教科書で学んだことを実践するときに大切なのは、すべてをきちんとやってみることだ。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.24
理論をつまみ食いせずに忠実に実行することが大切とあるが、ここが一番肝であると思う。
「導入しやすい部分」「都合のいい部分」だけを使おうとしてはいけない。「3つの対策が必要だ」と書かれていたら、3つ全て徹底的に取り込む。1つや2つではダメ。既に2つ実践しているから大丈夫だというように理論を言い訳の材料にすることもダメ。
第2部 教科書通りの戦略
「それまでの経営書はお客様視点に立ったマーケティングを強調するものが多かった。そんな中で、ライバルの動向こそが重要というポーターの理論は目からうろこで、強く印象に残った」
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.34
お客様にどのようなサービスを提供するかを考える前に、ライバルとの競争環境の中で取るべき戦略を決めるための理論。コスト競争力で優位に立つ「コストリーダーシップ」、競争相手との違いを前面に出す「差別化」、特定の領域に自社の経営資源を集めてライバルに勝つ「集中」の3つがある。
製品やサービスの質に差がなくなったとき、お客様は買いやすい会社、手間をかけずに安全に早く欲しいものが手に入る会社を選ぶ。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.61
大衆化を選んでも差別化できるということ。アクセスの改善、UIの改善(UXの向上)、チャネルの多様化とデータの一元化あたりが思い浮かぶ。
企業は売り上げを増やそうをして、製品のラインアップを増やそうとすることが多い。しかし、ライズによると、「短期的に見ると、製品ラインの拡張は常に売り上げを増大させる」が、「長期的な効果は無残」で、結果として売り上げが大きく落ち込む。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.78
マーケティングにおける最も強力なコンセプトは、見込み客の心の中にただ1つの言葉を植え付けること。
第3部 教科書通りのマーケティング
同委員会のキャッチフレーズは「ミスを憎んで、人を憎まず」。「ミスを起こした人の責任を問う」ことではなく、「同じミスを起こさない」ことが大事だからである。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.111
書面を作成する業務では何をミスと見做せば良いだろうか?誤字・脱字・衍字はミスと見做さないよう、ミスとは何かをあらかじめ共有しておく必要があると考える。
ここではお客様対応のミスを挙げていたが、クレームに繋がりかねないものをミスと見做すのか、もっと良くできたはずという改善の余地があるものをミスと見做すのか。とても興味深い活動だけに具体性のない記述になっている点が非常に残念。もしかしたら星野リゾートの事件簿で触れているかもしれない。
第4部 教科書通りのリーダーシップ
会社の現状をどれだけ語ったとしても魅力を感じてもらえないのならば、会社の将来についての話をしよう。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.152
将来を語り最短距離で進むことで関心を持ってもらうことで人を集める。
第5部 教科書通りに人を鍛える
スタッフが自らの判断で行動するように求め、社員の自由な発言を大切にし、「誰が言ったか」ではなく、「何を言ったか」を重視する。
中沢康彦. 星野リゾートの教科書. 初版第5刷, 日経BP社, 2010年, p.183
当たり前のことだが、当たり前として通用する会社が当たり前に存在しない、という不思議な言葉。教科書にも載っている当たり前のことを実践する星野リゾートの風土を感じることができる。